ヴァイオリン製作 あれ・これ

弦楽専門誌『ストリング』に「知っているようで知らない名器の逸話」を連載していたヴァイオリン製作家、木村哲也がヴァイオリンについていろいろお話しします。ホームページは www.atelierkimura.com

ニスの話 Part 4. 〜ニスの塗り方

私がニスを塗るのは通常1層か2層、多くても3層までだと言うと、驚く人が意外にたくさんいます。私が使うようなオイルニスに比べて非常に薄いアルコールニスを使用する職人が国内には多いため、ニスというものは何十層にも重ねて仕上げるというイメージが浸透しているからでしょう。
しかし、オイルニスを使っている人にとっても、1層だけで終わらせるというのはなかなか信じられないようです。

というわけで、今回は私のニスの塗り方について書きます。

 


数週間における日焼けをさせた後、以前お話しした目止めをした状態にあるのが、下のヴァイオリンです。

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樹脂を長時間にわたって加熱したマルチャーナ・ニスは、そのままでもかなり濃い色をしていますが、最終的に欲しい色によっては顔料を混ぜあわせて加色する必要があります。

 

主に使用する顔料は;

 インド茜から作ったマダーレーキ

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クルミから作った顔料

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そして、市販品のウルトラマリンブルーです。

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マダーレーキを作る方法は、またの機会にアップします。
これらの顔料を下にあるような道具を使い、好みの分量でニスに混ぜあわせます。

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塗り方です。ニスを塗る方法、というと皆さんが思い浮かべるのは刷毛でしょう。
刷毛にも様々な種類がありますが、私はあまりこだわっていません。愛用しているのは百円ショップのものです。

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105円のブラシでもしっかり塗れます。

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刷毛だけでも充分なのですが、それだと少しニスを伸ばしにくい、または時間がかかりすぎると感じるときには秘密兵器を使います。

 

で、その秘密兵器はというと......

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これです。手のひらのプクプクしている部分です。

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この部分を使って、あらかじめ大まかに伸ばしておいたニスをポンポンと軽くスタンプを押すようにすると......

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ニスをまんべんなく全体に広げていけます。強くバンバン叩く必要はありません。コツは必要以上のニスを塗ろうとしないことです。刷毛を使う際も同様ですが、ペンキを壁に塗るときのように、塗料(ニス)を伸ばせるだけ伸ばしてやってください。そうしないと、乾かせる間に垂れてしまいます。

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ヴァイオリンにニスを塗る順序です。

まずは裏板から塗り始めます。

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 一層のみで終わらせるためにかなりの量の顔料を加えてあります。今回は手のひらを使わず、刷毛だけで仕上げました。

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 次に表板です。裏とは違い、縦方向に伸ばしてやると塗りやすいです。

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そして横板。このときに表板、裏板の縁も塗ってやります。

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最後にスクロール。側面にニスを塗ってやった後に、正面、背面を塗るとやりやすいです。

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 これで楽器全体が塗れました。

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 このあとにアンティークイングをほどこして完成したのがこの楽器です

 これを読んで、まだ疑問があるよという人、また、ニスについて私に直接聞いてみたいよという人はぜひみささバイオリンワークショプに参加してみてください。希望者が多ければ現地で実演することも考えています。

ニスの話 Part 1. 

ニスの話 Part 2. 〜マルチャーナ・ニスの作り方

ニスの話 Part 3. 〜バルサムを使ったニスの作り方

 

オイルニスについて、新しいホームページでもレシピなどを公開しています!

 

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