ヴァイオリン製作 あれ・これ

弦楽専門誌『ストリング』に「知っているようで知らない名器の逸話」を連載していたヴァイオリン製作家、木村哲也がヴァイオリンについていろいろお話しします。ホームページは www.atelierkimura.com

ニスの話 Part 3.  〜バルサムを使ったニスの作り方

 前回の「ニスの話」では、マルチャーナ・ニスの作り方を説明しました。マルチャーナ・ニスはオイルニスの基本といえるもので、調合する樹脂の割合や種類、又は調理の仕方を変えることによって様々な特性を持ったニスを作ることが出来ます。今回は、バルサ*1と呼ばれる生松脂を使ったニスを作る方法をご紹介します。

  バルサムというのは、木が分泌するドロッとした樹液のことです。精製される前の松脂もバルサムです。バルサムも採れる樹木によって種類が変わってきますが、ヴァイオリン用のニスでよく使われるのは、ヴェネチアテレピン*2ストラスブールテレピン*3の2つです。

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 バルサムをそのまま使ってもオイルニスはできるのですが、バルサムの量を多くすると乾きが遅くなってしまいます。では、どうするか。

 調理してやるのです。

 マルチャーナ・ニスの作り方を説明した際に、松脂を長時間熱したのを覚えていますか?これと全く同じことをバルサムを使ってすれば良いだけのことなのです。

 長時間調理してやると、初めは透明感の強い液体だったバルサムの色がどんどん濃くなっていきます。180度で約120時間くらい調理すれば充分でしょう。まだ熱いうちにアルミホイル、またはベーキングシートを敷いたオーブン皿に注ぎ、冷まします。

 冷えると、調理前は液体だったバルサムが固体の樹脂となって残ります。この樹脂を松脂の代わりに使って、あとはマルチャーナ・ニスの作り方の(4.)から同じようにオイルと混ぜます。使う量などは松脂と同じ扱いで大丈夫です。

 このニスも基本形のマルチャーナ・ニス同様、テレピン油などで薄めずに使います。天気の良い日は、1日で乾きます。

 ヴェネチアテレピンを使うと黄金色が強いニスになり、ストラスブールテレピンだと赤色が強くなります。ただ、同じ名前でも品質に差があるので、気をつけてください。特にヴェネチアテレピンには他の材料を混ぜて作られたものがあるので、注意が必要です。

ニスの話 Part 1. 〜良いニスとは

ニスの話 Part 2. 〜マルチャーナ・ニスの作り方

ニスの話 Part 4. 〜ニスの塗り方

オイルニスについて、新しいホームページでもレシピなどを公開しています!

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*1:Balsam

*2:Venetian Turpentine

*3:Strasbourg Turpentine