ヴァイオリン製作 あれ・これ

弦楽専門誌『ストリング』に「知っているようで知らない名器の逸話」を連載していたヴァイオリン製作家、木村哲也がヴァイオリンについていろいろお話しします。ホームページは www.atelierkimura.com

ストラディヴァリのヴィオラ『マクドナルド (the Macdonald)』が売りに出されるそうです

 アントニオ・ストラディヴァリが1719年に製作したヴィオラ、『マクドナルド (the Macdonald)』がこの春、ロンドンのIngles&HaydayによってSotheby'sを介してオークションにかけられます。

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 アマデウス・カルテットのペーター・シドロフが愛用していたこのヴィオラ*1、入札は$45,000,000 (約46億円)から。オークションでの最高額をほこるレディ・ブラントが12.7億円でしたから、これまた強気な値踏みです。
 オークションはヴァイオリンのオークションで一般的な公開された形ではなく、非公開のシールドビッド方式*2で行われます。

 46億円という値踏みについてIngles&Haydayは

50年前に『マクドナルド』が市場に出た当時、それまでのオークションでストラディヴァリのヴァイオリンについた最高額は$23,000でした。そこに『マクドナルド』が登場し、$81,000という値段で購入されたのです。

これを現在の状況に置き換え、現時点でのオークションでの記録を誇る『レディ・ブラント』が2011年に$15,900,000で売れたことを考えると『マクドナルド』が$50,000,000ほどで売れたとしてもおかしくありません。

と言っています。Ingles&Haydayのホームページにはストラディヴァリがいかに有利な投資であるかも説明されています。このような逸品がただの楽器として買える(売れる)ご時世ではないということですね。

 

  シドロフが購入してからちょうど50年。このクラスのヴィオラは滅多に市場に出回らないのでたいへん貴重な機会です。個人的な思い入れは、英国王立音楽院にあるもうひとつのストラディヴァリヴィオラ『アーキント (Archinto)』が圧倒的に強いですし、外見は好みですが、『マクドナルド』も素晴らしいです。

  あとはこの値段、マーケットが妥当とするかどうか、興味深いところです。

 

*1:シドルフは他にもニコラ・ベルゴンツィ(Nicola Bergonzi)も愛用していました

*2:封印入札方式。入札できるチャンスは一回限り。希望入札価格を紙などに記入してオークションハウスに渡す。