ヴァイオリン製作 あれ・これ

弦楽専門誌『ストリング』に「知っているようで知らない名器の逸話」を連載していたヴァイオリン製作家、木村哲也がヴァイオリンについていろいろお話しします。ホームページは www.atelierkimura.com

なぜヴァイオリンを作っているのか Part 1.

現在、弦楽器製作家として活動している私ですが、もともとはピアノを幼いころから習っていました。そんな中、いつのまにか、興味の対象が演奏技術から楽器本体へと移っていきました。家にあったピアノ自体はなんてことのない、某K社のアップライトだったのですが、それでも「なぜ、この楽器からこんなに綺麗な音がでるのだろ」という疑問を頭に植え付けるには充分のものでした。

そんな私が、ひょんなことから「大橋ピアノ研究所」のことを知ったのは、今から17年ほど前です。そしてある日、知る人ぞ知る名器と言われる「OHHASHI」を弾いてみたいと思い立ち、岐阜市内のあるピアノ専門店を訪れました。店員さんは、電話も無しに突然訪ねてきた中学生の話に真剣に耳を傾けるだけではなく、なんとその場で、大橋ピアノ研究所を訪問できるように手配してくれました。

そして、訪れた研究所。その時点で残念ながら、もうすでに工房としては機能しておらず、数台残されたピアノと道具類が静かにたたずんでいるだけでした。しかし、職人たちの想いが染み付いたその場所には、私の心を文字通り「動かす」なにかがありました。きっと、工房自体はまだ生きていたのでしょう。静かに職人の帰りを待ちながら。

二代目である大橋巌氏が急病で亡くなられた為に、OHHASHIの幕は閉じてしまいましたが、その工房で、残されたとし子夫人から様々なお話をお聞きするなか、私が「楽器作り」を自分の生きる道としようと決意したのは自然な流れでした。あの時に感じた研究所の空気、そして初めて弾いたOHHASHIの「手触り」、いまだに五感すべてに焼きついています。私の楽器作りへの想いの原点は、あの暑い浜松での一日にあります。

ここまで書いて思いましたが、出会いって面白いですよね。本当に。