ヴァイオリン製作 あれ・これ

弦楽専門誌『ストリング』に「知っているようで知らない名器の逸話」を連載していたヴァイオリン製作家、木村哲也がヴァイオリンについていろいろお話しします。ホームページは www.atelierkimura.com

接ぎネック

 下の画像を見てください。
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 なんか気持ち悪いですね。これはデンタル・コンパウンドと呼ばれるもので、もともとは歯の型をとるのに使われるものです。写真はそれを少し熱めのお湯(指を入れられる限界位)に浸して柔らかくしているところです。その右に置いてあるのが、お湯に浸ける前の状態の物です。そして、これを一体何に使うのかというと...

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 こうしてヴァイオリンの渦巻きを固定するのに使うんですね。木型や石膏で作っても良いのですが、それだと時間がかかるので、このような正確さがそれほど必要とされない場合には、このような代替品ですませてしまいます。
 「これは何をやっているところだろう」と思っていますか?

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 これは、英語で「Neck Graft(ネック・グラフト)」と呼ばれる作業のひとつで、日本語では「接ぎネック」などといわれます。これは修理・修復の部類に入り、新作のヴァイオリンを作る場合には通常必要無い作業です。でも、ここでは私の新作用にやっています。
 なぜ?
 過去の名器には大抵その修理・修復の過程でこのように新しいネックがつけられているため、それが一種の特徴となっています。オールド仕上げ(アンティーク仕上げ)のコピーを作る際にこの特徴を取り入れることで、よりオリジナルに近い雰囲気を出そうというねらいがあります。また、渦巻き自体には地味な木材(杢が少ないメイプル、ポプラ、ウィロー、ビーチなど)を使い、ネック(棹)には派手な杢があるもの(ほぼ100%メイプル)を使用したい時にもこのような「余分な」作業をします。
 でも、これをやればどんなヴァイオリンでも古く見えるというものではありませんよ。

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 これが「新しい」ネックを渦巻きに膠で糊付けしているところです。これが、完成したヴァイオリンではどのように見えるかは、またこの楽器がめでたく完成した際にお見せします。