ヴァイオリン製作 あれ・これ

弦楽専門誌『ストリング』に「知っているようで知らない名器の逸話」を連載していたヴァイオリン製作家、木村哲也がヴァイオリンについていろいろお話しします。ホームページは www.atelierkimura.com

弾きやすいヴァイオリンって何?

 ヴァイオリンの性能を判別するときに必ずといって良いほど登場する言葉に「弾きやすさ」があります。では、いったいどのような要素が「弾きやすさ」に関係しているのでしょうか?

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1.指板を含めたネック、ノットなどの形状、寸法からなる「弾きやすさ」
 これは説明しやすいです。ようするに、ネックが太めか細めか、断面の形状が半円か、それとも楕円に近いか、凸凹が無いか、ノットが正確に形作られているかなどです。最適のサイズ及び形状は奏者の好みによって変わりますが、これらの要素からなる「弾きやすさ」は、良い悪いの判別が簡単に行えますよね。「より弾きやすい=より良い」という形式が成り立つからです。
 
2.楽器本体の性質からなる「弾きやすさ」
 これはヴァイオリンという楽器の奥深さをある意味象徴するものです。ヴァイオリンのボディ(楽器本体)は弾きやすければやすいほど良いというものでは、ありません。確かに、楽器を習い始めてまもない人や、趣味として気軽に楽しんでいる人には、弾きやすいもののほうが良いと言えるのでしょうが、楽器自体の弾きにくさを自分の腕でカバーできる奏者は、ある程度の難解さ、もしくは癖を持つヴァイオリンを好む傾向にあります。
 自虐的な行為にうつるかもしれませんね。
 しかし、そのような一種、荒馬のような楽器のほうが「乗りこなす」面白みがあるのと同時に、見返りも大きいのは事実です。各弦のバランスが違っていたり、同じ弦上でも弾く音によって極端に音色が変わってしまったり、このような楽器を弾きにくくする現象であっても、巧い奏者はこれらを表現力として活かすことができます。また、レスポンスがあまりにも良すぎる楽器には、パワーがあまりありませんし、いくら奏者が力を込めて(誤解のある言い方ですが)弾いても楽器の限界にすぐ辿りついてしまう傾向があります。私はこのようなヴァイオリンを、英国の田舎によくある家に例えて「コテージ・ヴァイオリン(Cottage violin)」と呼びます。なぜなら、外見も内装もとても可愛く、親しみやすいそれらの家は、訪れる人の反応も良いですが、すぐに天井が低いことに気がつくからです。そのような家の中では、できることに限界がありますよね。楽器でも同じことが言えます。
  
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一見魅力的だが...


3.駒や魂柱からなる「弾きやすさ」
 駒や魂柱も一棹のヴァイオリンが弾きやすいか否かに関わりますが、1と2の中間の役割を持っていると考えともよいでしょう。駒の形状、特に弦が架けられるカーブの部分は弦の高さを調節する役割を果たしているので、これは1にある要素と同じようなものと見れますし、同時に楽器自体のレスポンス(音の出る速さ、弓に対する反応)にも影響を与えます。魂柱を調整する際に、駒との位置関係があまりにも重要視されるために置き去りにされがちになうのが、その「きつさ」です。魂柱のきつさの加減によって、弓圧に対する反応がかなり変わってきます。簡単に説明すると、弓圧の強い奏者には魂柱が比較的きつめに入れてあるもの、弱い奏者にはゆるめに入れてあるもののほうが弾きやすいと感じます。

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いかがでしょうか?一概に「弾きやすさ」とはいっても様々な要素から構成されているのが分かりますね。